現役時代はマイルから中距離路線で活躍し、日本だけではなく香港でもGⅠを優勝したモーリス。3歳までは気性の問題もあり重賞を優勝することができなかったが、休養を挟んだ4歳以降は連勝を重ね、香港を含めGⅠを6勝した。種牡馬入り後は産駒が日本だけではなくオーストラリアでも活躍しており、次世代のトップサイヤーとしての活躍が期待される。
ここでは、モーリス産駒の特徴を紹介する。
【目次】
血統
Northern Dancer 5+5 x 4+5 Hail to Reason 5+5
父はジャパンカップを9番人気、単勝41倍の低評価ながら優勝したスクリーンヒーロー。
母は未勝利馬のメジロフランシス。
母父は凱旋門賞などフランスGⅠを2勝したカーネギー。
2代母はアルゼンチン共和国杯など重賞4勝のメジロモントレー。
近親には特に活躍馬はいないが、4代母は朝日杯3歳ステークスを優勝したメジロボサツで、それがメジロ牧場の基礎牝系となり、メジロドーベル、ショウナンラグーン、ホウオウイクセルなど他にも数多くの活躍馬を輩出している。
母系の父の血統を見ると、モガミ、フイディオン、モンタヴァルとスタミナはあるが気性難を抱えた種牡馬に配合されていることがわかる。そのためかモーリスは2,3歳時は勝ち切れないレースが多かったが、本格化後はその前向きな気性が良い方に向き、日本と香港でGⅠ6勝するまでになった。
現役時代
デビューは2013年10月6日、京都芝1400m。そこそこのスタートを切ると直線では1頭違う脚を繰り出し、コースレコードで優勝。
しかし2戦目の京王杯2歳ステークス(GⅡ)ではスタートで立ち上がり出遅れたこともあり、上がり3ハロン1位の末脚を使ったが6着に敗れた。ただ、3戦目の500万条件(現1勝クラス)の万両賞は順当に優勝しオープン馬となり2歳シーズンを終えた。
3歳シーズンはシンザン記念(GⅢ)から始動したがミッキーアイルの5着に敗れる。その後もスプリングステークス(GⅡ)は4着、京都新聞杯(GⅡ)は7着、白百合ステークス(OP)は3着に敗れ、将来的な成長も見据え長期休養に入る。
4歳になり1000万条件(現2勝クラス)の若潮賞(中山芝1600m)、1600m条件(現3勝クラス)のスピカステークス(中山芝1800m)を連勝すると、ダービー卿チャレンジトロフィー(GⅢ)に出走。1番人気に支持されると、小雨が降るなか1分32秒2というレースレコードで優勝し、重賞初制覇とともにマイル路線の主役に躍り出た。
安田記念(GⅠ)では好メンバーが揃う中1番人気に支持される。スタートは少し遅れたが掛かり気味に先行。直線では持ったまま追い上げ残り200m付近で先頭に躍り出ると、追いすがるヴァンセンヌをクビ差しのぎ優勝、スクリーンヒーロー産駒初のGⅠ制覇となった。
夏を休養に充て次走は毎日王冠(GⅡ)を予定していたが、疲れが取れないこともあり回避、マイルチャンピオンシップ(GⅠ)へ直行することとなった。スタートは五分に出て道中は中団外を追走。直線では進路を外に取り追い始めるとグイグイと伸び、2着のフィエロに1馬身4分の1差をつけ優勝、史上7頭目の春秋マイルGⅠ制覇となった。
4歳最終戦として香港マイル(GⅠ)に参戦。スタートは五分に出て道中は中団外を追走。直線ではエンジンのかかりが遅く一時は香港で絶大な人気を誇るエイブルフレンドにかわされるが、エンジンがかかると抜き返し2着のジャイアントトレジャーに4分の3馬身差をつけ優勝。4歳時は6戦6勝、GⅠ3勝となったため、年度代表馬、最優秀短距離馬を受賞した。
5歳初戦はドバイターフを予定していたが疲れなどもあり回避し、5月のチャンピオンズマイル(香港GⅠ)に参戦。スタートは五分程度で道中は外を先行。直線は軽く仕掛けただけでエンジンがかかり残り200mで先頭へ立つと、その後は後続を突き放し2着のコンテントメントに2馬身差をつけ優勝した。
帰国後は安田記念に出走したが、ロゴタイプがスローペースで逃げたこともあり道中は折り合いを欠き、直線で伸びきれず2着。その後、夏は休養に充てる。
秋以降は将来の種牡馬入りを見据え中距離路線へ進むため、休養明けは札幌記念(GⅡ)へ出走。しかし稍重の馬場であったこと、内枠有利のバイアスで8枠から終始外を回らされたこともあり、上がり3ハロン最速の決め手を使ったが優勝したネオリアリズムに届かず2戦連続で2着に終わる。このレース後、5歳一杯で現役引退が発表される。
5歳4戦目は天皇賞秋(GⅠ)へ出走。スタートは挟まれたが二の足を使い、道中はエイシンヒカリがスローで逃げた4~5番手の外を追走。直線では1頭離れた外に進路を取ると、じわじわと伸び2着のリアルスティールに1馬身2分の1差をつけ優勝、GⅠ5勝目となった。
そして現役最終戦は香港カップ(GⅠ)に参戦。スタートで出遅れたこともあり、道中は後方待機。しかし最後の直線では内から馬群を割りスルスルとポジションを上げると一気に先頭に立ち、2着に3馬身差をつけ圧勝、現役最終戦でGⅠ6勝目を挙げた。
引退後は社台スタリオンステーションにて種牡馬入りし、初年度から200頭以上の牝馬を集める人気種牡馬となった。オーストラリアにもシャトルされ、その中からヒトツがGⅠを制覇するなど産駒は海外でも活躍している。
重賞で優勝した距離は1600m~2000m。後方からレースを進めた時は1頭違う末脚を使っていたが、上手く先行できた時は先行押し切りすることもあった。
血統的には中長距離が得意そうだが、母系のモガミ、フイディオン、モンタヴァルから前向きな気性を受け継いだからか、古馬になると1600m~2000mで類まれなるスピードを見せた。
主な勝ち鞍
- 安田記念(GⅠ/2015)
- マイルチャンピオンシップ(GⅠ/2015)
- 香港マイル(GⅠ/2015)
- チャンピオンズマイル(香港GⅠ/2016)
- 天皇賞秋(GⅠ/2016)
- 香港カップ(GⅠ/2016)
- ダービー卿チャレンジトロフィー(GⅢ/2015)
代表産駒
- 2018年産駒
・ピクシーナイト(スプリンターズステークス・GⅠ/2021、他重賞1勝、2023年5月末現在)
・シゲルピンクルビー(フィリーズレビュー・GⅡ/2021、2023年5月末現在)
・ルークズネスト(ファルコンステークス・GⅢ/2021、2023年5月末現在)
・ヒトツ(ヴィクトリアダービー・豪GⅠ/2021、他GⅠ2勝)
・ジャックドール(大阪杯・GⅠ/2023、他重賞2勝、2023年5月末現在)
・マズ(ドゥームベン10000・豪GⅠ/2022、他重賞1勝、2023年5月末現在)
・ノースブリッジ(AJCC・GⅡ/2023、他重賞1勝、2023年5月末現在)
・ジェラルディーナ(エリザベス女王杯・GⅠ/2022、他重賞1勝、2023年5月末現在)
- 2019年産駒
・ラーグルフ(中山金杯・GⅢ/2023、2023年5月末現在)
・カフジオクタゴン(レパードステークス・GⅢ/2022、2023年5月末現在)
モーリス産駒の特徴
距離適正
若駒戦、芝
2020,6,1~2023,5,31
古馬、芝
2021,6,1~2023,5,31
距離の守備範囲は短距離から長距離まで幅広いが、大きく分けると牡馬はマイルから長距離、牝馬は短距離から中距離までが中心。
配合で距離適性が判断しにくく、気性が距離適性に出ている印象だ。例えば、スプリンターズステークスを優勝したピクシーナイトは2歳の頃から落ち着きがなく、ゲートが近くになるとエキサイティングする場面も多くなっていたため、短距離で好走したのだろう。
一方、大阪杯を優勝したジャックドールは後続を離して逃げることもあるが、騎手とのコンタクトが取れれば淡々と走ることができる。ある程度は馬体を考慮しないといけないが、気性の落ち着き具合で距離適性を判断するのがよさそうだ。
馬場状態は良の成績が良く速い時計ににも対応できている。大阪杯を優勝したジャックドールがいい例だろう。
若駒戦、ダート
2020,6,1~2023,5,31
古馬、ダート
2021,6,1~2023,5,31
ダートは1400m以下が中心ではあるが距離適性は幅広い。ただ、勝率は1400mが11.3%に対し、1800mは7.9%となっており、どちらかというと短い距離の方が得意そうだ。
これはおそらく、モーリス産駒は一本調子のタイプが多いからだと思われる。一般的に、1000mから1700mは道中でペースが緩みにくい傾向だが、1800m以上はどこかでペースが落ち着くことが多い。そのため、ペースが緩みにくい短距離の勝率が高いのだろう。
馬場状態は、湿っている稍重以上の勝率が高い。
馬場適正
若駒戦、芝とダートの割合
2020,6,1~2023,5,31
古馬、芝とダートの割合
2021,6,1~2023,5,31
芝の方がおおむねトリプルスコアの差をつけて勝利数が多い。モーリスの父であるスクリーンヒーローは芝ダート兼用種牡馬だが、モーリスは牝系に芝向きの血統が多いことから、この結果になったのだろう。
ただ、ダートの勝率が9.8%と低いわけではないので、空っ下手ということでもなさそうだ。カフジオクタゴンがレパードステークスで優勝しており、もっとダートで使われるようになると勝利数が増えてくるかもしれない。
コース適正
若駒戦、芝
2020,6,1~2023,5,31
古馬、芝
2021,6,1~2023,5,31
まだ3世代分のデータしかないのでどの競馬場が得意というのはあまり出ていない。ただ、東京芝1800mと2000m、小倉芝2000m、新潟芝1800mは勝率が高くなっており、ジリジリと長く脚を使えるコースが得意なようだ。
極端に苦手なコースは今のところ見当たらないが、新潟芝1000mはのべ17頭が出走し勝ち馬はいない。
若駒戦、ダート
2020,6,1~2023,5,31
古馬、ダート
2021,6,1~2023,5,31
ダートは右回り小回りの中距離が苦手となっており、中山ダート1800mは勝率3.1%、福島ダート1700mは6.9%、小倉ダート1700mは2.9%である。器用さがないのでこの結果になったのかもしれない。
牡牝の勝利数の違い
若駒戦
2020,6,1~2023,5,31
古馬
2021,6,1~2023,5,31
牡馬の方が勝利数も勝率も高いことから、牡馬優勢である。一般的にロベルト系は男前血統として知られているので、モーリス産駒もその傾向通りとなっている。
これはおそらく、モーリス産駒は筋肉量が豊富だからだろう。モーリス産駒は特に芝は馬体重が多い方が走る傾向だし、重賞を優勝している馬も牝馬とノースブリッジ(490kg台)を除きすべて馬体重が500kgを超えている。モーリスの現役時代と同じく、産駒も大きい牡馬の方が走りやすい傾向だ。
クラス別勝利数
芝
2020,6,1~2023,5,31
ダート
2020,6,1~2023,5,31
芝は2勝からOPENクラスまでの勝率が高いが、それはデータがまだ少ないからだろう。特に特徴があるデータは出ていない。
ダートの勝利のほとんどが未勝利と1勝クラスだが、徐々に上級条件の勝利が増えてきている。ただ、データが少なくこれといった特徴は出ていない。
母父の血統
若駒戦、芝
2020,6,1~2023,5,31
ノーザンD系=ノーザンダンサー系 ロイヤルC系=ロイヤルチャージャー系
古馬、芝
2021,6,1~2023,5,31
ノーザンD系=ノーザンダンサー系 ロイヤルC系=ロイヤルチャージャー系
モーリスはサンデーサイレンスが父方の3代前になるため、母父サンデー系の配合がかなり多くなっている。ただ、重賞優勝馬で母父サンデー系は母父ディープインパクトのルークズネストとジェラルディーナのみとなっており、サンデー系との配合がそこまでプラスになっていない。
ミスタープロスペクター系との相性が良い。特に母父キングカメハメハは勝率16.3%となっており、かなり走る傾向だ。代表産駒のジャックドールも母父Unbridled's Song(アンブライドルズソング)である。
ナスルーラ系は数字が悪いが、データが少ないためだと思われる。
ダート
2020,6,1~2023,5,31
ノーザンD系=ノーザンダンサー系 ロイヤルC系=ロイヤルチャージャー系
ダートはデータが少なく相性が良い配合は出ていないが、相性が悪いのは母父ディープインパクトである。のべ72頭が出走し勝ち馬は3頭、勝率4.2%となっておりかなり厳しい。そもそも、ディープインパクトはダートを苦手としており、それがこの結果になったのだろう。
成長度
2020,6,1~2023,5,31
仕上がりは早めだが、2歳の6,7月は出走数が少なめ。ただ、8月以降に出走数がグッと増え、10月頃から未勝利での勝ち鞍が多くなり、その勢いは3歳以降になっても衰えない。
4歳はさらに勢いが増し、ジャックドールやジェラルディーナなどは4歳になって重賞を初優勝した。ノースブリッジが5歳でAJCCを優勝しており、成長力はかなりある。まだデータは少ないが、晩成型と思って良さそうだ。
モーリス産駒の特徴まとめ
- 距離適性は短距離から長距離まで幅広いが、牡馬はマイルから中距離、牝馬は短距離から中距離が中心
- 馬場適正は芝がトリプルスコアで多いが、ダートの勝率も悪くない
- ダートは右回りの小回りで中距離が苦手
- 牡馬優勢
- 母父キングカメハメハとの相性が良い
- 成長力があり晩成型
個人的に考えるモーリス産駒の特徴
モーリス産駒が得意な芝のバイアスは
- 馬場 軽い、やや軽い、標準、やや重い、重い、極悪
- 上がり 速い、やや速い、標準、やや遅い、遅い、極悪
- 枠 超内、内、フラット、外、超外
- 直線の伸び 内、やや内、フラット、やや外、外
- 前後 超前、前、展開次第、差し、超差し
と想定している。
馬場は軽い方が良い。速い時計に対応できる産駒が多く、代表産駒のジャックドールは金鯱賞で中京芝2000mのレコードタイムを持っている。
上がりはどちらかというと遅い方が良い。決め手が使えるタイプがいない訳ではないが、一本調子のタイプが多く上がりが遅い方が好走しやすい。差し馬も上がりが遅いと届きやすい。
枠はどちらかというと内枠の成績が良い。スタートが上手いタイプが多く、内枠の方がロスが少なく走れる。
直線の伸びはどちらかというと内伸びの方が良い。逃げ先行押し切りタイプが多く、そのため差し馬が台頭しにくい内伸びの方が好走しやすい。
前後はどちらかというと前有利の方が良い。逃げ先行押し切りタイプが多く、差し馬が台頭しにくい前有利の方が好走しやすい。
気性により産駒のタイプが分かれるが、基本的にはパワーやスタミナが優勢のように感じる。ロベルト系の本家本元のような印象で同父系のシンボリクリスエスに近く、ハイペースを押し切るのが得意な産駒が多い。クラシックではダービーよりも皐月賞が向きそうで、古馬では大阪杯、マイルCSが得意そうなイメージがある。