2008年のジャパンカップ(GⅠ)を単勝41倍で9番人気の低評価ながら優勝したスクリーンヒーロー。デビュー戦も単勝293.8倍の13番人気(4着)と超低評価だったように意外性のあるサラブレッドである。種牡馬入り後も意外性を見せ、初年度産駒からモーリス、ゴールドアクターを輩出し現在では人気種牡馬となっている。
ここでは、スクリーンヒーロー産駒の特徴を紹介する。
【目次】
血統
Hail to Reason 4 × 4 Northern Dancer 4 × 4
父は"最強世代"の1頭にして、有馬記念(GⅠ)や宝塚記念(GⅠ)などGⅠを4勝した名馬・グラスワンダー。
母はランニングヒロイン。母の半兄に日経賞(GⅡ)など重賞2勝したステイヤー・ステージチャンプ。全姉にフェアリーステークス(GⅢ)を制し桜花賞3着のプライムステージ。半妹に京都牝馬ステークス(GⅢ)2着のベストロケーションなどがいる。
母の父は説明不要のスーパーサイヤー・サンデーサイレンス。
母の母は当時一線級の牡馬と互角以上に渡り合い、混合重賞で4勝を挙げ最優秀4歳以上牝馬を2年連続受賞した女傑・ダイナアクトレス。
近親には、
- マルカラスカル(中山大障害/J・GⅠ、中山グランドジャンプ/J・GⅠ)
- アブソリュート(東京新聞杯/GⅢなど重賞2勝)
- サンプレイス(新潟記念/GⅢ)
などがいる。
3代母は短距離~マイルで活躍し最優秀3歳牝馬を受賞したモデルスポート。そこにリーディングサイヤーのノーザンテーストを配合して生まれたのがマイル前後で活躍した2代母・ダイナアクトレスである。
そのためスピードのある牝系と思われたが、ダイナアクトレスからはステージチャンプといったスタミナがある産駒も輩出されたため、スピードもスタミナもある牝系となっている。
そのダイナアクトレスに当時輸入2年目のサンデーサイレンスを配合して生まれたのが母・ランニングヒロイン。
そして、ランニングヒロインに人気種牡馬のグラスワンダーを配合して生まれたのがスクリーンヒーローである。
血統背景は、社台系の名牝に社台系の一流種牡馬を配合し続け、やっとGⅠ馬が生まれたという、スクリーンヒーローはまさに社台系の結晶と言えるだろう。
現役時代
デビューは2006年11月の東京ダート1600m。単勝239.3倍の13番人気という超低評価だったが、スタート良く2番手につけるとそのまま4着に粘り素質の片鱗を見せる。
初勝利はデビュー3戦目の中山ダート1800m。ここでもスタート良く2番手につけると、そのまま押し切り4馬身差で圧勝した。
5戦目の中山ダート1800mで2勝目を挙げ、その後は芝に路線変更し好走するものの勝ちきれないレースが続く。
しかし、ラジオNIKKEI賞(GⅢ)で14番人気ながら2着と激走すると、菊花賞トライアル・セントライト記念で14番人気ながら3着とまたしても激走し菊花賞(GⅠ)への出走権を得るが、直後に左前脚膝を剥離骨折し長期休養に入る。
11ヶ月後の支笏湖特別(当時1000万条件/現2勝クラス)で復帰し勝利すると本格化。
格上挑戦でアルゼンチン共和国杯(GⅡ)に参戦すると、テイエムプリキュア等が大逃げするなか5番手で追走し、直線で力強く抜け出し重賞初勝利を挙げた。
そして迎えた2008年ジャパンカップ(GⅠ)。ディープスカイ、ウォッカの2強対決と目され、スクリーンヒーローは単勝41倍で9番人気の低評価だった。
1000m通過61.8秒というスローペースで他馬が折り合いに苦労する中、5番手の外でピタリと折り合う。最後の直線に入るとウォッカやマツリダゴッホをかわし、ディープスカイを最後は振り切り優勝した。
この時の単勝4100円という配当は現在まで破られていないジャパンカップ史上最高配当である(2021年まで)。
その後もGⅠ競争を中心に出走し好走するが勝ちきれず、2009年のジャパンカップ出走後に左前浅屈腱炎が判明し引退、レックススタットにて種牡馬入りすることとなった。
骨折から復帰後は主に中長距離で使われ、優勝距離は2400~2600mである。乗った騎手が「引っかからない」というように操縦性が高くスタートも上手かった。
指示に対する従順性も高く、骨折後のレースはすべてスローペースの中で初角5番手以内につけ、直線で抜け出すのが勝利パターン。この操縦性や従順性の高さは、父・グラスワンダーから遺伝したものであろう。
そして4歳になってからの成長ぶりは、グラスワンダーの父系・Roberto(ロベルト)系や、母系のダイナアクトレスから遺伝したものだろう。
Roberto系は古馬になってから連勝するのが特徴で、スクリーンヒーローや、産駒のモーリス、ゴールドアクターにも見られる。ダイナアクトレスも古馬になってから充実したように、スクリーンヒーローは父系からも牝系からも成長力を受け継いだものと思われる。
主な勝ち鞍
- ジャパンカップ(GⅠ/2008)
- アルゼンチン共和国杯(GⅡ/2008)
代表産駒
- 2011年産駒
・モーリス(香港カップ・GⅠ/2016、他GⅠ5勝)
・ゴールドアクター(有馬記念・GⅠ/2015、他重賞3勝)
- 2012年産駒
・グァンチャーレ(シンザン記念・GⅢ/2015)
・ミュゼエイリアン(毎日杯・GⅢ/2015)
- 2014年産駒
・トラスト(札幌2歳ステークス・GⅢ/2016)
- 2015年産駒
・ジェネラーレウーノ(セントライト記念・GⅡ/2018、他重賞1勝)
- 2017年産駒
・マイネルグリット(小倉2歳ステークス・GⅢ/2019)
・ウインマリリン(香港ヴァーズ・GⅠ/2022、他重賞3勝、2023年5月末現在)
・ウインカーネリアン(東京新聞杯・GⅢ/2023、他重賞1勝、2023年5月末現在)
- 2018年産駒
・クールキャット(フローラステークス・GⅡ/2021、2023年5月末現在)
- 2019年産駒
・アートハウス(ローズステークス・GⅡ/2022、他重賞1勝、2023年5月末現在)
・ピースオブエイト(毎日杯・GⅢ/2022、2023年5月末現在)
スクリーンヒーロー産駒の特徴
距離適正
若駒戦、芝
※2013,6,1~2023,5,31
古馬、芝
※2014,6,1~2023,5,31
若駒戦も古馬も操縦性や俊敏性が高い産駒が多く、マイル前後の距離で先行抜け出すタイプが中心である。代表産駒だと、グァンチャーレ、ミュゼエイリアン、トラストなどがそれにあたる。
スクリーンヒーロー自身の母父がサンデーサイレンスなので産駒の中にはキレる脚を使えるタイプも偶にいるが、基本的にはサンデー系種牡馬の産駒にキレ負けすることが多い。そのため、上手く先行して上がりが掛かった展開を馬群から抜け出す形の勝利が目立つ。ダイワメジャーやフジキセキ産駒に近いイメージでいいだろう。
しかし、ゴールドアクターやジェネラーレウーノのような中長距離が得意なタイプも少数ながら輩出する。このタイプはスクリーンヒーローの現役時代と同じような勝ち方をする場合が多い。
基本的にはマイル前後を得意とするが、少数ながら中長距離を得意とする産駒も輩出する種牡馬で距離不問である。
若駒戦、ダート
※2013,6,1~2023,5,31
古馬、ダート
※2014,6,1~2023,5,31
若駒戦はどの距離でも走る。上位人気の馬も人気通りに走るが、人気薄の激走も多く集計期間内では単勝回収率は92%とかなり高い。
古馬はマイル以下が得意なタイプと、少数ながら1900m以上が得意なタイプに分かれる。そして、何故か1700mと1800mの勝利数と勝率が極端に低い。1700mは7勝で勝率6.3%、1800mは8勝で勝率4.2%となっている。
おそらくだが、マイル以下が得意なタイプは一本調子の馬が多く、1700mと1800mだと一息で走れないからこの結果になったのだろう。長距離が得意な馬は1800m以下では短いのだと思われる。
馬場適性
若駒戦、芝とダートの割合
※2013,6,1~2023,5,31
古馬、芝とダートの割合
※2014,6,1~2023,5,31
スクリーンヒーロー産駒は芝から使われることが多いため若駒戦は芝の勝利数が多いが、古馬になるとおむね半々になる。そのため、芝ダート兼用と思っていいだろう。
ダートの上級条件で走る馬はまだ少ないが、初年度産駒のクライスマイルがレパードステークスで2着に入っているためそのうち重賞勝利馬も出てくるだろう。
ちなみに、ブライアンズタイムなどロベルト系は晩年になると産駒のダートの割合が増えるため、スクリーンヒーロー産駒もその傾向になるかもしれない。
コース適正
若駒戦、芝
※2013,6,1~2023,5,31
古馬、芝
※2014,6,1~2023,5,31
初期は中山芝を中心に小回りのコースが得意だった。しかし、モーリスやゴールドアクターの活躍で2019年頃から大手の社台系やビッグレッド系の生産馬が増え始め、直線が長いコースや中央4場の成績が上がってきた。
産駒は様々なタイプがいるが、大別すると2つに分けられる。一つはモーリスのように母系が欧州系のタイプ、もう一つはウインマリリンのように母系が米国系のタイプである。
母系が欧州系のタイプはジリジリと長い脚が使えるため、東京や京都など長い直線が得意なタイプが多い。
一方母系が米国系のタイプはスタートが良く逃げ先行して押し切るのが得意なので、中山やローカルの成績が良い。
若駒戦、ダート
※2013,6,1~2023,5,31
古馬、ダート
※2014,6,1~2023,5,31
1000m、1700m、1800mが苦手なため、その距離が中心の競馬場は数字が低くなっている。
得意なコースは新潟ダート1200mで、勝率13.2%で12勝を挙げている。しかも10頭で12勝とほとんどが違う馬で勝利しており、単勝回収率が124%なので相当得意なのだろう。
馬場状態は重の数字が高く芝スタートが得意なので、芝的な能力を要求されると好走する確率が高い。
牡牝の勝利数の違い
若駒戦
※2013,6,1~2023,5,31
古馬
※2014,6,1~2023,5,31
若駒戦は少し牡馬の勝利数が多いくらいだが、古馬はおおむねダブルスコアで牡馬の勝利数の方が多い。ただ、2019年以降は牝馬の勝利数も増えてきている。
牝馬の古馬は2018年までは3勝しかしていなかった。しかし、モーリスやゴールドアクターの活躍もあり大手牧場の産駒が増えてきた2019年以降は急激に牝馬の勝利数が増えてきており、勝利数や勝率は牡馬も牝馬も変わらなくなってきている。
牝馬でも中長距離を勝つ産駒も増えてきており、牡馬と牝馬の違いはあまり気にする必要は無さそうだ。
クラス別勝利数
芝
※2013,6,1~2023,5,31
ダート
※2013,6,1~2023,5,31
ダートはOPEN特別で頭打ちとなっている。しかし、勝利数も多いのでそのうち重賞を優勝する馬も出てくるだろう。
芝はクラスが上がると勝率が上がる傾向だ。一般的にロベルト系は大物を排出する血統でハイペースに強いため、クラスが上がりペースが速くなるほどレースがしやすくなるのだろう。
母父の血統
若駒戦、芝
※2013,6,1~2023,5,31
ノーザンD系=ノーザンダンサー系 ロイヤルC系=ロイヤルチャージャー系
古馬、芝
※2014,6,1~2023,5,31
ノーザンD系=ノーザンダンサー系 ロイヤルC系=ロイヤルチャージャー系
はっきり言って母父の血統はものすごく地味である。初年度から4年目までの種付け料が30~50万円だったので、BC級の繁殖牝馬が集まったためそうなったのだろう。
代表産駒の母父は、カーネギー、キョウワアリシバ、ディアブロなどと流行血統がおらず、配合牝馬もモーリスの母以外はBC級牝馬が多くなっている。
ただ、ロイヤルチャージャー系とは相性がかなり良いようだ。特にDevil's Bag(デヴィルズバッグ)を経由した種牡馬との配合が好相性で、ロージズインメイは19勝、勝率10.2%、単勝回収率126%、ディアブロは8勝、勝率11.4%、単勝回収率93%となっている。同系のタイキシャトルはあまり相性が良くないが、今後もDevil's Bag系との配合に注意したい。
2018年生まれの世代から配合牝馬の質が上がっているので、これからはもっと特徴的な傾向が出るのかもしれない。
若駒戦、ダート
※2013,6,1~2023,5,31
ノーザンD系=ノーザンダンサー系 ロイヤルC系=ロイヤルチャージャー系
古馬、ダート
※2014,6,1~2023,5,31
ノーザンD系=ノーザンダンサー系 ロイヤルC系=ロイヤルチャージャー系
ダートはサンデーサイレンス系との相性が良い。OPEN特別の千葉ステークス(中山ダート1200m)を優勝したウインオスカーの母父はエイシンサンディとなっているなど、母父サンデー系は複数勝利を挙げる産駒が多い。
他は芝血統との相性もいいようだ。ダートで複数勝利を挙げている産駒の母父は、Nureyev(ヌレイエフ)、ホワイトマズル、エルコンドルパサーなどが目立っている。
エルコンドルパサーとの配合ではノーザンダンサーのクロスが発生するし、ウインオスカーもそうなので、もしかしたらノーザンダンサーとのクロスでダート化するのかもしれない。
成長度
※2013,6,1~2023,5,31
2017年生まれ世代以降は2歳戦から走る馬が多いが、基本的には3歳春に勝ち鞍が多くなる傾向だ。その後、3歳秋から本格化し始め、4歳に充実するのが代表産駒の成長パターンとなっている。
まだ世代が少ないため5歳以降の勝ち鞍が少ないが、頑丈な産駒が多いため今後は長く現役を続ける馬も多くなるだろう。
ロベルト系の強い馬は2歳から才能の片鱗を見せてクラシックに出走する産駒もいるが、全体的には晩成傾向と言える。スクリーンヒーローもその傾向通りとなっている。
スクリーンヒーロー産駒の特徴のまとめ
- 芝はマイル前後の距離が得意だが、少数ながら長距離で走る馬もいる
- ダートはマイル以下の距離が中心で、1700mと1800mが苦手
- 馬場適正は芝ダート兼用、しかし上級条件は芝が多い
- 芝のコース適正は母系の血統で決まる
- ダートのコース適正は芝スタートが得意
- 芝もダートも中京競馬場が苦手
- 初期は古馬牝馬が走らなかったが、2019年以降は牡馬も牝馬も勝利数はあまり変わらなくなってきている
- ロイヤルチャージャー系、特にDevil's Bag(デヴィルズバッグ)を経由した種牡馬との配合が好相性
- 成長度は晩成傾向
個人的に考えるスクリーンヒーロー産駒の特徴
スクリーンヒーロー産駒の芝の得意なバイアスは
- 馬場 軽い、やや軽い、標準、やや重い、重い、極悪
- 上がり 速い、やや速い、標準、やや遅い、遅い、極悪
- 枠 超内、内、フラット、外、超外
- 直線の伸び 内、やや内、フラット、やや外、外
- 前後 超前、前、展開次第、差し、超差し
と想定している。
馬場は軽くても重くても対応できている。というか、産駒毎にタイプが違う。ただ、どちらかというとスローペースや渋った馬場が得意な産駒が多い印象がある。データ集計期間内だと、馬場状態が不良になると勝率19.5%、単勝回収率281%なので不良馬場がかなり得意なのかもしれない。
上がりは速すぎると対応できない。レースが上手い産駒が多く、基本的には逃げ先行して直線で抜け出すのが勝ちパターンで、決め手がある産駒が少ない。あまり上がりが速すぎると、ディープインパクト産駒などの決め手がある馬に差されてしまうことが多い。
枠は内枠の方が良い。スタートもレースも上手な産駒が多いため、内枠の方がスムーズに走れるのだろう。
直線の伸びは内伸びの方が良い。レースが上手く先行できる産駒が多いので、内伸び馬場で差し馬が台頭できないバイアスが合う。
前後は前有利の方が良い。レースが上手く先行できる産駒が多いので、そのまま押し切れるバイアスが合う。
代表産駒が良い例になるだろう。ゴールドアクターは先行して抜け出すのが優勝パターンだったし、モーリスも4歳春からは先行して優勝するレースが多くなっていた。
あと、トモが緩くて先行できない産駒が、休み明けに突如先行できるようになると本格化の合図だ。そうなると代表産駒のように連勝モードに入るので追いかけたい。
スクリーンヒーロー産駒のダートの得意なバイアスは
- 馬場 軽い、やや軽い、標準、やや重い、重い
- 上がり 速い、やや速い、標準、やや遅い、遅い
- 枠 超内、内、フラット、外、超外
- 直線の伸び 内、やや内、フラット、やや外、外
- 前後 超前、前、展開次第、差し、超差し
と想定している。
馬場はどちらかというと軽い方が良い。スクリーンヒーロー産駒は芝向きの軽快なスピードがあるため、軽い馬場の方が実力を発揮できる。
上がりも上記と同じ理由だ。
枠は内枠の方が良い。データでも内枠ほど勝率が高く、外枠になるほど勝率が低くなる。ただ、8枠は揉まれないためか勝率が高い。
直線の伸びは内伸びの方が良い。スタートが上手い産駒が多いため、内をロスなく立ち回って抜け出すのが理想だ。
前後は前有利の方が良い。スタートが上手い産駒が多いため、逃げ先行してそのまま押し切るタイプが目立つ。
まだ重賞で優勝する産駒は出てきていないが、オープンクラスで好走する産駒も多いのでそのうち出てくるだろう。スタートもコーナリングも上手いので地方交流重賞も注目したい。