2005年の有馬記念(GⅠ)であのディープインパクトに唯一土をつけたハーツクライ。2006年はドバイシーマクラシック(UAE・GⅠ)で、カルティエ賞(ヨーロッパ年度代表馬)やエクリプス賞(アメリカ最優秀芝牝馬)に選出されたOuija Board(ウイジャボード)を破って優勝するなど、大物食いとしても知られている。その実績をもって2007年から社台スタリオンステーションで種牡馬入りすると、2年目産駒にジャスタウェイを出すなど人気種牡馬となった。
ここでは、ハーツクライ産駒の特徴を紹介する。
【目次】
血統
クロスなし
父は説明不要のスーパーサイヤー・サンデーサイレンス。
母は福島で行われた新潟大賞典(GⅢ)と、新潟で行われた新潟記念(GⅢ)で優勝したアイリッシュダンス。母の半妹に東海ステークス(OP)で優勝したスピードアイリスがいる。
母父はこちらも説明不要のスーパーサイヤー・トニービン。
3代母のMy Bupers(マイビューパーズ)の牝系からは、
- ミッキーアイル(マイルCS/GⅠなどGⅠ2勝)
- テイエムジンソク(東海ステークス/GⅡなど重賞2勝)
- ノンコノユメ(フェブラリーステークス/GⅠなどGⅠ2勝)
- ダイヤモンドビコー(阪神牝馬ステークス/GⅡなど重賞4勝)
など、近年活躍馬が多く輩出されている。
血統背景は、母父は凱旋門賞を制したトニービン、母の母の父は欧州でクラシックホースや選手権距離のGⅠ馬を数多く輩出するLyphard(リファール)となっているため、スタミナ豊富な牝系である。
そこに牝系の良さを引き出し中距離のスピードを注入するサンデーサイレンスが配合されたため、日本の高速馬場に対応しつつスタミナもあるハーツクライが完成したのだろう。
現役時代
デビューは3歳になってからで、2004年開催初めの1月5日4Rの新馬戦・京都芝2000m。1000m通過65秒という超スローペースを力強く抜け出し快勝。
次戦のきさらぎ賞(GⅢ)は3着に敗れたが、その後若葉ステークス1着となり皐月賞(GⅠ)に出走するものの、良いところなく14着に大敗。
京都新聞杯(GⅡ)に出走し快勝すると、日本ダービー(GⅠ)に挑戦。キングカメハメハが2分23秒3と当時のレーコードで優勝する中、強烈な末脚で追い込むものの届かず2着。
その後は菊花賞(GⅠ)、ジャパンカップ(GⅠ)、有馬記念(GⅠ)に出走するが、差し届かず惨敗を重ね3歳シーズンを終える。
4歳になり天皇賞・春(GⅠ)、宝塚記念(GⅠ)、天皇賞・秋(GⅠ)、ジャパンカップ(GⅠ)に出走するものの差し届かず、最高順位は2着。
そして迎えた2005年の有馬記念。ディープインパクトが単勝1.3倍に支持され、もはやディープがどの位の差をつけ優勝するかだけが注目されていた。
すると、ハーツクライの鞍上・ルメールは強気の先行策を選択。楽な手ごたえのまま最後の直線に入ると、すぐ後ろにはディープが迫る。しかし、詰め寄られるともうひと伸びしディープに半馬身差をつけ大金星を挙げた。
5歳になると陣営はドバイシーマクラシック(UAE/GⅠ・芝2410m)を選択。ここでも鞍上のルメールは超強気に逃げて、最後の直線では後続をさらにつき放す余裕っぷりを見せGⅠ2勝目を挙げた。このレースにはあのOuija Board(ウイジャボード)も出走していたことから、2回目の金星を挙げたことになる。
その後、陣営はキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス(英国/GⅠ・芝約12ハロン)への参戦を表明し出走。
道中手ごたえよく追走し、最後の直線では中団から抜け出し先頭へ。あわや勝ちそうな場面もあったが、Hurricane Run(ハリケーンラン )の決め手に屈し3着に敗れる。
その後はジャパンカップでディープと再戦したが、喘鳴症(ノド鳴り)の影響もあり10着と大敗。
敗戦後、陣営にて協議の結果、引退が発表され、2007年から社台スタリオンステーションにて種牡馬入りすることとなった。
3歳時のきさらぎ賞以外はすべて2000m以上に出走したように、中長距離が得意である。4歳時のジャパンカップまでは差して届かないレースが続いていたが、ルメールが先行させてからは安定した成績を残せるようになった。
産駒は長い直線が得意で東京競馬場の芝コースで良績を残しているものの、自身は勝利を挙げられなかった。
主な勝ち鞍
- 有馬記念(GⅠ/2005)
- ドバイシーマクラシック(GⅠ/2006)
- 京都新聞杯(GⅡ/2004)
代表産駒
- 2008年産駒
・アドマイヤラクティ(豪州/コーフィールドカップ・GⅠ/2014、他重賞1勝)
- 2009年産駒
・ジャスタウェイ(UAE/ドバイデューティーフリー・GⅠ/2014、他GⅠ2勝)
- 2011年産駒
・ヌーヴォレコルト(オークス・GⅠ/2014、他重賞3勝)
・ワンアンドオンリー(日本ダービー・GⅠ/2014、他重賞2勝)
- 2012年産駒
・シュヴァルグラン(ジャパンカップ・GⅠ/2017、他重賞2勝)
- 2014年産駒
・スワーヴリチャード(ジャパンカップ・GⅠ/2019、他GⅠ1勝、重賞3勝)
・リスグラシュー(有馬記念・GⅠ/2019、他GⅠ3勝、重賞1勝)
・Yoshida(米国/ウッドワードステークス・GⅠ/2018、他GⅠ1勝)
- 2015年産駒
・タイムフライヤー(ホープフルステークス・GⅠ/2017、他重賞1勝)
- 2017年産駒
・サリオス(朝日杯フューチュリティステークス・GⅠ/2017、他重賞2勝)
- 2019年産駒
・ドウデュース(日本ダービー・GⅠ/2022、他GⅠ2勝、他重賞1勝、2024年6月末現在)
・ノットゥルノ(ジャパンダートダービー・GⅠ/2022、他重賞2勝、2024年6月末現在)
- 2020年産駒
・Continuous(英セントレジャー・GⅠ/2024、他重賞3勝、2024年8月末現在)
ハーツクライ産駒の特徴
距離適正
若駒戦、芝
※2010,6,1~2024,5,31
古馬、芝
※2011,6,1~2024,5,31
若駒戦も古馬も1500m以下は勝利数も勝率も低く、1600mから勝ち鞍が増えてくる。そして、主戦場は2000m以上となっているため明らかに中長距離血統である。このような数字は、ハービンジャーやルーラーシップ、ステイゴールドなどの中長距離が得意な種牡馬と同じ傾向だ。
重賞の優勝距離は1200m~3400mとなっている。しかし、こちらも1600mから勝利数が増え、2000m以上が主戦場である。
1400mと1800mも若干苦手な傾向なので、根幹距離が得意な血統と言える。
若駒戦、ダート
※2010,6,1~2024,5,31
古馬、ダート
※2011,6,1~2024,5,31
ダートはどちらも1800mが主戦場である。1900m以上も勝率が高くなっているため、ダートでも中長距離血統である。
母系が短距離血統の場合は短距離でも走ることがあるが、基本的には最低でも1700m、できれば1800mは欲しい。
ちなみに、ダートは馬場状態が悪化したほうが勝率が上がる。
馬場適性
若駒戦、芝とダートの割合
※2010,6,1~2024,5,31
古馬、芝とダートの割合
※2011,6,1~2024,5,31
芝と比べるとダートは勝利数も勝率も低め。これは、ハーツクライにダートが得意な血統が含まれていないためだろう。
父サンデーサイレンスは日本の芝で強い産駒を輩出し、母父トニービンも産駒のダート重賞は1勝のみの芝血統。
そういったことから、ハーツクライ産駒はダートを無難にこなす程度で得意ではない。
ちなみに、ハーツクライ産駒はJRAの芝のグレード競争を優勝した回数はのべ83回だが、芝は78勝に対し、ダートは5勝のみとなっている。ダートのオープン特別も11勝しかしていない。(すべて2024年5月末時点)
ただ、近年はダートの勝率が徐々に上がってきている。サンデーサイレンス系種牡馬は晩年にダート向きの産駒が多くなるという特徴があり、ハーツクライ産駒もその通りになっているようだ。今後はダートを主戦場にする産駒も増えてくるだろう。
コース適正
若駒戦、芝
※2010,6,1~2024,5,31
古馬、芝
※2011,6,1~2024,5,31
ハーツクライの母父がトニービンということもあり、やはりコースが広い中央4場の成績が良い。特に直線が長い東京の成績が抜群である。
次に成績が良いのが新潟だ。新潟芝の外回りは658.7mなので、エンジンのかかりが遅いハーツクライ産駒は向くのだろう。
他には北海道の勝率が高めで、これも母父トニービンの影響だろう。トニービンは凱旋門賞を優勝しているため、配合次第では洋芝適正が高い産駒も多い。
馬場状態の適正は、牡馬は不良馬場の安田記念でジャスタウェイが優勝したように重馬場が得意な馬が多く、牝馬は有馬記念で優勝したリスグラシューのように速い時計が得意な馬が多い。
以上のことから、長い直線のコースが得意で、牡馬は重馬場が得意、牝馬は良馬場が得意である。
若駒戦、ダート
※2010,6,1~2024,5,31
古馬、ダート
※2011,6,1~2024,5,31
芝コースとは逆で、東京と新潟が苦手である。
東京の施行距離は1300m、1400m、1600m、2100m、2400mとなっており、1600m以下がメイン。ハーツクライ産駒は1800m以上の距離が得意なため、短い距離がメインの東京は合わないのだろう。実際に2100m以上は勝率が8%となっているため悪くない。
新潟はコース形態が原因だと思われる。全10場の中でもコーナーが最もキツく、大飛びのハーツクライ産駒には合わないのだろう。
牡牝の勝利数の違い
若駒戦
※2010,6,1~2024,5,31
古馬
※2011,6,1~2024,5,31
おおむね平均的な数字か、若干牡馬の方の数字が高めである。
普通は、ステイゴールドのようなスタミナタイプだと牡馬の数字が高くなり、ディープインパクトのようなスピードタイプだと牝馬の数字が高くなる。
ハーツクライ産駒は平均的な数字となっているため、スタミナもあるしスピードもあるのだろう。
ただ、芝の重賞の勝率は、牡・セン馬は7.8%なのに対し、牝馬は5%となっている。
クラス別勝利数
芝
※2010,6,1~2024,5,31
ダート
※2010,6,1~2024,5,31
ダートは近年になりGⅡや地方GⅠを優勝しているが、勝利数のほとんどが2勝クラス以下である。ここまで産駒が多いのにも関わらずこの数字ということは、基本的にダートは向かないということだろう。
芝は下級条件の勝率が高く、上級条件になると勝率が下がる。これは、ハーツクライ産駒はズブく2,3着が多いという特性によるものだろう。
上級条件だとペースが速く追走に手間取り、現役時代のハーツクライ自身のように差し届かないケースが目立つ。これが下級条件だと楽に追走でき、得意のロングスパートで勝ちきれる。
母父の血統
若駒戦、芝
※2010,6,1~2024,5,31
ノーザンD系=ノーザンダンサー系 ロイヤルC系=ロイヤルチャージャー系
古馬、芝
※2011,6,1~2024,5,31
ノーザンD系=ノーザンダンサー系 ロイヤルC系=ロイヤルチャージャー系
大まかな括りとしては、母父の血統に特徴はない。
ただ細かく見ると、Machiavellian(マキャベリアン)、Unbridled's Song(アンブライドルズソング)、Seeking the Gold(シーキングザゴールド)など、ミスタープロスペクター系の早熟血統との相性が良い。
これは、ハーツクライ自身がスタミナ豊富で晩成だったため、そこに早熟性とスピードがあるミスタープロスペクター系の血を注入することで、スタミナとスピードがあり2歳戦から活躍する産駒が出るからだろう。
ただ、中長距離血統との相性も悪くない。ホープフルステークスを優勝したタイムフライヤーの母父はブライアンズタイムだし、中山牝馬ステークスを優勝したシュンドルボンはエルコンドルパサーのように、スタミナ血統との配合でも大物を輩出する。しかし、タイムフライヤーを除いて中長距離血統との配合は晩成の叩き良化型が多い。
基本的には、2歳戦やクラシックで戦える産駒は母父早熟スピード型、古馬になってから本格化する産駒は母父晩成スタミナ型の血統が多くなっている。
若駒戦、ダート
※2010,6,1~2024,5,31
ノーザンD系=ノーザンダンサー系 ロイヤルC系=ロイヤルチャージャー系
古馬、ダート
※2011,6,1~2024,5,31
ノーザンD系=ノーザンダンサー系 ロイヤルC系=ロイヤルチャージャー系
ダートも大まかな括りとしては、母父の血統に特徴はない。
細かく見ると、Lyphard(リファール)系との相性が気持ち良いくらいだ。
ハーツクライ産駒はこの配合からダート馬が出る……というのはないようだ。
成長度
※2010,6,1~2024,5,31
2歳戦も走らないこともなく、仕上がりが早い産駒は2歳の早い時期に初勝利を挙げることもある。しかし、本格化は3歳か古馬になってからが多い。
早い時期から走れるか古馬になってから本格化するかは、母父の血統や牝系を見るとだいたい分かる。
2歳戦やクラシックで勝負できる馬は、母父や牝系が短距離の早熟血統のタイプが多いく、古馬になってから本格化するのは母父や牝系が長距離の晩成血統のタイプが多い。
全体的には晩成型と言っていいだろう。ただ、新馬戦と2歳9月までの勝率は高めとなっている。
ハーツクライ産駒の特徴まとめ
- 芝は2000m以上、ダートは1800m以上の中長距離が得意
- ダートは無難にこなすだけで、基本的には芝馬が多い
- 芝は広いコースで長い直線が得意
- 北海道の洋芝も得意
- 牡牝は若干牡馬優勢か?
- ペースが遅い下級条件の勝率が高い
- ニックスと言われるような配合は今のところない
- 母父が短距離の早熟血統だと2歳戦やクラシックでも間に合うが、基本的には晩成タイプ
個人的に考えるハーツクライ産駒の特徴
ハーツクライ産駒の得意な芝のバイアスは
- 馬場 軽い、やや軽い、標準、やや重い、重い、極悪
- 上がり 速い、やや速い、標準、やや遅い、遅い、極悪
- 枠 超内、内、フラット、外、超外
- 直線の伸び 内、やや内、フラット、やや外、外
- 前後 超前、前、展開次第、差し、超差し
と想定している。
馬場は多少渋った方が良い。時計の速い馬場だとディープインパクトなどの高速馬場が得意な種牡馬に遅れを取るし、渋りすぎるとステイゴールド系やハービンジャーなどの重馬場巧者に負ける。
上がりも速すぎず遅すぎずが良い。速すぎるとディープ系にキレ負けするし、遅すぎるとステイゴールド系やハービンジャーなどの重馬場巧者に負ける。
枠は、不器用な産駒が多いため基本的には外枠の方が良い。ただ、トニービンの血を持った馬は本格化しトモがパンとしてくると先行できるようになるため、そうなると内枠の方が良い。若いうちは不器用なので外枠の成績が良いが、馬齢を重ね先行できるようになると内枠の成績が良くなる。
直線の伸びも、枠と同じように先行できるかどうかで変わる。若い馬や不器用な馬は後方からの差ししかできないため、外伸びの方が良い。本格化し先行できるようになると内伸びの方が良い。
シュヴァルグランが良い例になるだろう。若い頃は後方差ししかできずなかなか勝ちきれなかったが、3歳後半頃から先行できるようになり本格化すると連勝。5歳時のジャパンカップでは道中4,5番手で先行しキタサンブラックを下して優勝した。2歳後半~3歳時の長期放牧明けで楽に先行できるようになれば、本格化し安定したレースができるようになる。
前後は、これも先行できるかどうかだ。若い頃は不器用な馬が多いので差し有利の馬場の方が良い。先行できるようになる本格化後は、前有利の馬場の方が良い。
ハーツクライは非常に中途半端な種牡馬である。高速馬場だとディープインパクトにスピードやキレ負けするし、重馬場だとステイゴールドやハービンジャーなどの重馬場巧者にかなわない。やや重だったり、良でも少し渋った良馬場が得意なのでストライクゾーンが狭い印象がある。